2024年11月19日15時から、東京地方裁判所において、国家賠償請求事件に係る第一回弁論期日が開催されました。
期日においては、訴状及び答弁書(答弁留保)が陳述されたほか、以下の内容の意見陳述をさせていただきました。
意見陳述につきましては、報道等されているところではございますが、ここでは全文を掲載させていただきます。
意見陳述要旨
原告ら訴訟代理人の意見陳述要旨は、以下のとおりです。
第1 「本件について調査を行ったが、死亡した原因は、分からなかった。」
令和元年12月10日に広島地方検察庁に勤めていた検事が亡くなった後、広島高等検察庁を中心とした調査が実施され、翌令和2年1月10日に、広島高等検察庁の総務部長から原告らに伝えられた調査結果は、このような内容でした。
原告らは、調査が始まる頃までに、亡くなった検事が広島地方検察庁の当時の次席検事から机を叩かれながら「修習生以下である」旨の発言をされたことを把握しており、広島高等検察庁に対しても、資料とともに、当時の次席検事による発言等の存在を伝え、これが死亡の原因となったのではないかとの疑念も伝えていました。
しかし、広島高等検察庁が原告らに対して行った説明では、当時の次席検事によるこれらの言動等について、なんら評価されることはなく、当該言動の存在とその前後のやりとりについては、調査結果に基づく事実の確認がなされたのみであり、それが指導として正しかったのか、不適切でありやってはいけなかったのではないか、という点には触れられませんでした。
また、「死亡した原因は分からなかった」とした広島高等検察庁の調査を終えた段階において、同高検は、亡くなった検事の超過勤務時間に関し、わずか1か月分だけを調査しただけであり、それに基づいて、「分からない」との報告をしていたのでした。
広島高等検察庁が「分からない」と伝えていた本件は、原告らが公務災害を申請した結果、検察庁での業務に起因していることが認められ、公務上の災害であることが認定されました。
原告らがこの申請をしていなかった場合、真相の究明や本件が発生した原因などが分からないまま、遺族である原告らにも適切な補償がされないまま、本件は忘れ去られていたことでしょう。
このような検察庁の杜撰な対応は決して許されることではありません。
第2 我々が本件訴訟を提起した趣旨は、法務省ないし検察庁において、本件と同様の事案が二度と発生しないよう、再発防止を徹底していただくよう訴えていくとともに、想像したくはないものの、万一同様の事案が発生した際の対応について先例を示すとの点に集約されます。
先ほど述べましたとおり、我々の目から見て、当初行われた広島高等検察庁が実施した調査は不十分と言わざるを得ない内容でしたし、我々の申し出を受けて行われた公務上の災害と認定するまでに行われた調査等によっても、当時の次席検事による言動等が極めて不適切であり、指導としても行うべきではない点にすら、何らの評価も言及もされていないことについては、法務省ないし検察庁において、本気で原因を究明するつもりがあるのか、強い憤りを覚えるものです。
すでに報道でも出ているとおり、法務省・検察庁の内部においては、同様の事案が断続的に発生している状況です。本件前にも複数名の方が職場環境を原因として自ら命を絶っており、本件後も同様の事象が発生しているとの報道等を耳にしています。これらの状況を踏まえても、本件なり、他の同種の事案を戒めとした十分な再発防止策が取られているとは考えられない状況が続いており、原告らが感じた憤りを同様に感じている方が多数おられるのではないかと強く懸念しているところです。
第3 本件訴訟の原告ら代理人5名のうち、私を含め3名は、かつて検事として検察庁に勤務した経験を有する弁護士です。
また、私自身は、広島地方検察庁公判部において、本件で亡くなった検事の先輩として、共に執務をしていました。
彼は、将来有望であり、私も先輩として、今後の成長をとても楽しみにしていました。それだけに、本件が発生したことは、痛恨の極みというほかなく、何かできることはなかったのかと、未だに後悔といいましょうか、無力感といいましょうか、そのような感情を覚えます。
将来有望な人材を失ったことは、検察庁としても大きな損失であったはずです。本件のような事案は、二度と発生させてはいけないのです。
昨今の検察庁をめぐっては、大阪地検検事正による事件、取調べに関する問題、再審事案に関する談話の問題等が話題となっています。
これらの問題は、本件とは直接関係がないように見えるところではありますが、検察庁という組織の中にいた経験がそうさせるのでしょうか、それぞれ、上司と部下との関係に根ざした事案、これまでに何度も再燃している事案、外部からの見え方・世論に対する疎さを露呈した事案のように見え、本件と共通するもの、もう少し踏み込んで言えば、法務省ないし検察庁に根ざしている閉鎖的な体質によって生じた問題としての共通項を見出さざるを得ません。
我々は原告の立場にあり、国ないし法務省・検察庁は被告の立場にこそありますが、我々が真に求めていることは、対立というよりは、亡くなった検事の家族として、短いながらもかつて勤めていた検察庁のOBもしくは同じ法曹として、現在、職場に残っている検事、副検事、事務官をはじめとした職員の方々が精神等を追い込まれることのないよう、健全な職場環境を実現するために、速やかに問題の原因を究明する体制を構築して、再発の防止を徹底していただき、同様の事案が起こらぬよう努めていただくこと、問題が起こった際には、関係者に寄り添い十分な原因究明を行うとともに、直ちに問題を解消できる体制を整えていただくことに尽きます。
私が検事になった頃、大阪地方検察庁で発生した証拠改竄事件を受けて「検察の理念」というものが作成されましたが、今は話題に上がることすらもなくなりました。また、本件と同様の問題が起こった際に、先輩方が内部で問題提起をされていたようですが、結局、内部で何かが変わったということを感じることはありませんでした。
今回の件を、これらのように、ほとぼりが覚めたら何も変わっていなかったということで済ませるわけにはいかないのです。
もうじき、本件の検事が亡くなってから5年もの月日が過ぎ去ろうとしています。国ないし法務省・検察庁においては、本件を機として、速やかに問題の根本的解決に取り組んでいただき、適宜その内容を明らかとしていかれるよう望む次第です。
以上、原告ら代理人の意見陳述とさせていただきます。